『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代(上)』
著:ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ
訳:山崎章甫
岩波文庫、2000年1月発行
26冊目 |
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| 『修業時代』全3冊の1冊目です。続編の『遍歴時代』と合わせれば全6冊の大作です。1巻目は、主人公ヴィルヘルムが演劇との出会いを通じて成長する姿を詳細に描いています。トーマス・マンらはゲーテの文体を高く評価しているようですが、訳文は平易なのになぜか読む者の集中力を殺ぎます。下手をすれば字面を追うだけになってしまいます。小説の世界に解け込むのを逸らすかのようでした。物語の中身ですが、当時の演劇人の苦労や辛酸を活写している側面があり興味深かったです。読む前からは見聞だけで判断してシェイクスピアを侮蔑したヴィルヘルムが、彼の本を読み出したら深い感銘を覚えてしまいます。その傾斜は滑稽でした。侯爵に招かれた座の一団が館の者の対応に当惑したり不潔な生物を扱うかのようにあしらわれたりと苦い経験もします。また、侯爵のために戯曲を書いたりそれを朗読したりと波乱万丈です。ヴィルヘルムが助けたミニヨンが重要な役割を果たす人物らしいので次巻が待ち遠しいです。 |
『王様と恐竜――スーパー狂言の誕生』
著:梅原猛
集英社、2003年4月発行
25冊目 |
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| 梅原猛さん原作のスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」に続くシリーズ「スーパー狂言」です。収録作は表題の「王様と恐竜」、「クローン人間
ナマシマ」、「ムツゴロウ」の三作。時勢に疎い人でも、読めばすぐ何を非難する内容なのか一目瞭然の狂言です。「王様と恐竜」は米国のブッシュ大統領のイラク攻撃を非難しており、「クローン人間
ナマシマ」はクローン技術を人間に応用した場合の帰結を滑稽に描き、「ムツゴロウ」は諫早湾の事件を湾内に棲む生物たちの視点から人間の愚行を問い詰める風刺作品になっています。残念なことにこれらの狂言を実際の能舞台で観たことがないのですが、文明批評の文脈で狂言を鑑賞するのも一つの楽しみ方だと思います。狂言固有の言葉遣いもほとんどないので謡曲よりも遥かに通読が容易です。「ムツゴロウ」の中で、一匹のムツゴロウが、人間は仏教を忘れている、仏教には殺生戒があるのだぞと諭す場面があるのですが、これは梅原さんが仏教や日本文化などを研究領域としているからこそ出てくる発想ですね。 |
『三国志演義
2』
訳:井波律子
ちくま文庫、2002年11月発行
24冊目 |
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| 井波律子訳『三国志演義』の2巻目です。私は井波氏のご著書『中国のアウトサイダー』、『酒池肉林』、『中国文学の愉しき世界』などを読んでいまして、『三国志演義』の邦訳を読破するには井波先生の訳書で挑戦してみたいと常々思っていました。井波氏は『正史
三国志』の翻訳には携わっておられるためか、『三国志演義』内での脚注でも、正史との相違点や異本から補筆するなどの手配がなされています。第2巻の酣は、関羽が義姉二人を連れて曹操の手の者を次々となぎ倒す疾風迅雷の闘将ぶりでした。やむなく敵将の曹操に従事していた関羽ですが、曹操の懐の深さと広さも見上げたもので、曹操が捧げる劉備への忠心も理解してくれました。敵ながら天晴れです。劉備ら三人と曹操を除くと、どの登場人物も部屋の片隅で小ぢんまりしている感じがして、存在感が薄いです。呂布もf義父を殺すなどの悪事を成して注目を浴びますが曹操に敗れてしまいます。一方では、権力や支配権の継承なども骨肉の争いもあり、騒乱の絶えない世の中です。次の巻ではいよいよ孔明先生のご登場ということもあり、どんな波乱が生じるのか楽しみです。 |
『鬼道の女王 卑弥呼(下)』
著:黒岩重吾
文春文庫、1999年11月発行
23冊目 |
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| 邪馬台国を治めた女王ヒミコの半生を描く古代史小説。その下巻です。ヒミコの父ミコトの死に続き、ヒミコに反旗を翻したタカヒコ殺害、魏から金印を授かり倭連合国統一へと進みます。やはり特記すべきは、ミチゴメが宦官となるために下した一大決心でしょう。ヒミコに仕えるのは女子のみで男子は禁制。そこで著者は『魏志倭人伝』にある「唯男子一人有りて飲食を給し、辞を伝えて居処に出入す」の記述をとらえて、ミチゴメの去勢手術と結び付けています。この記述から発して、ミチゴメという人間を創出し、史料上の謎を解明しようと試みています。上巻では、あくまで女王としての体面を繕うため、女性としての欲望を自制するかのように見えますが、下巻ではそんな外見に形振り構わずな表情が垣間見えます。話題がミチゴメのことになるとその感情が一層高まり、しかし時間の経過にはヒミコといえども敵わず、化粧などを施して彼女なりの自尊心も映し出されます。高齢化ととも神託の力も衰退して、反乱分子の狗奴国がヒミコたちに楯突くことに。そしてミチゴメの訃報が届いて物語は終幕を迎えます。一人の女性として生きることのできなかったヒミコの哀しい物語でもありました。 |